ここは事務所の資料室。
 数えきれない程大量の資料が、本棚からはみだし、所狭しと並んでいる。
そんな部屋に、小さな人影ともう一回り大きな影。

 「ねぇーねぇー」

ゆらゆらと揺れる白く長い耳。小さな人影がもう一つの影に声を掛けた。

 「何でしょうか?」

もう一つの影が、やんわりと丁寧な口調で答える。

 「大好き―ぃ」

 白く長い耳の持ち主――リルが言った。

 「はい。ありがとうございます」

 言われた貴緒も直ぐに答えた。それを聞いたリルは頬を膨らませる。

 「むむ!反応が薄い」

 「そうですか?」

 「………むぅ」

リルは、また頬を膨らませて今度はそっぽを向いてしまった。

 「どうしたんですか?機嫌を損なわれているみたいですが?」

 「…だって、貴緒が冷たいんだもん」

 「『冷たい』?」

 「いっつもリルが『好き』って言っても、貴緒反応薄いんだもん」

 「うーん…そう言われましても…」

 眺めていた資料を棚にしまう。

 「それに、貴緒はまだリルの事子供扱いして、リルだってもう立派な大人の女性なんだよ―」

 「そうかもしれませんね」

 「“かも”じゃなくて“そう”なの―!」

ふてくされた様に足をばたばたさせる。

 「だから、こうやって告白してるのに、貴緒ったら聞いてくれないんだもん」

 「ちゃんと聞いてますよ」

 「うっそだぁ。だって、こんなに堂々と告白してるのに、顔色一つ変わんないじゃん」

 「………………それは」

 俯き加減で、黙り込んでしまった貴緒。

 「貴緒?」

しばらくの間、静寂が続く。

 「……分からないんです」

 「?」

 急な貴緒の発言に、首をかしげるリル。

 「分からないんです。どうすれば良いのか。今まで、他人からこんな事言われた事がなかったので……どういう顔をすれば良いのか分からないんです」

 「………」

 予想外の答えに、しばし考えるリル。
すると、





むにっ。





 「…はひ?」

 「こーすれば良いんだよ」

そう言いながら、リルは貴緒の口端を摘み上げた。

 「な…なにをひゅるんれすか?」

 「だから、こーすれば良いんだよ!」

 「はぁ…?」

 「告白された時は、素直に喜ぶ!!
 誰だって、自分が愛されてるって分かれば、嬉しいに決まってるでしょ?」

そう言って、笑顔を浮かべた。

 「…………」

しばらくその笑顔に気を取られていると、急にリルが顔を近付けて言った。

 「分かった?」

 「えっ!?……えぇ」

 「じゃあ、もう一回」

 「………はい?」

 貴緒の頭上に?が浮かんでいるのを無視して、リルは座っていた机から飛び降りた。
そして、貴緒の目の前まで来ると、大きく息を吸い込んで言った。

 「貴緒、大好き!」

 二回目の告白。だが、貴緒にはさっきとは違う響きに聞こえた。

 告白されたら、素直に喜ぶ。

リルの言葉が、頭に浮んだ。そして、いつもとは違う心からの笑顔を作って――――。







 「僕もです」











 他人の気持ちを受け取る事が出来なかった。
その術を知らなかった。
そんな僕に、キミはその術を教えてくれた。 
 一度知ってしまえば、とても簡単な事だったと思ったけど、きっと自分一人では一生かかっても分からなかったに違いない。
キミがいたから。






だから―――――――。






ありがとう。













 心の底から、感謝します。











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