‐KRAUN事務所 社長室‐ 「……ッ…痛い!痛いです!呉羽……」 「動かないで下さい…もう少しですから」 「だって……痛ッ!!」 「動くからですよ」 「いっ……あ!血が出てきちゃったじゃないですか!!呉羽が乱暴にするからですよ!!」 「貴方が大人しくしないからじゃないですか!」 「呉羽が乱暴にやるからですよ!!」 「……そんな事言うなら…………こうしますよ!」 「ッ!痛ぁッ!!!」 「全く、自業自得です」 「なっ…!?酷いじゃないですか!!何もそんなに強く押さなくても!!呉羽の鬼!!!」 「何言ってるんですか!もとあと言えば、貴方が無理に電球取り替えようとするからこんな事になったんじゃないですか!!」 「……………まぁ、そうですけど………」 ‐事の始まりは10分前‐ KRAUN事務所社長『平成のホームズ』は、いつもの様にデスクに向かって仕事をかたずけていた。 そんな時、 「あ」 ふと、天井を見上げると電球が一つ消えているのに気が付いた。 「通りで、薄暗いと思ったら……」 しばらく、「う~ん…」と悩んだ後、思い出したかの様にデスクを離れると、壁際の棚に手を伸した。 「あったあった」 手には、少し埃を被った電球。 それから、椅子を消えている電球の下辺りまで運んだ。 「よっと…」 椅子に乗り、切れている電球を外す。 そして、新しい電球を取り付けようと、背伸びをした瞬間―――――。 グラッ! 「あらら?」 バッターンッ!!! 「わぁ――――――――っ!!!」 ‐そして現在‐ 「だいたい、無理に取り替えなくても、タウ○ページ使えば良かったじゃないですか。○純さんもCMで言ってるんですから」 「だって、面倒くさかったんだもん」 「面倒くさかったって…それでこんな怪我したんじゃないですか」 ホームズの身体には、あちらこちらに痣や擦り傷があった。 それを、ポンポンと薬の染み込んだ綿で消毒していく。 「…いだっ!!ほらまた乱暴にする!」 「いい加減大人しくしないと、またさっきみたいに傷口押しますよ…?」 「きゃー。呉羽の鬼畜ーぅ」 「…………えい☆」 「あだだだだだッ!!!?」 思いっきり傷口を押され、思わず叫ぶ。 「ぐふっ……後で覚えていなさい…」 そう良いながら、ソファーに倒れるホームズ。 「はいはい。分かりましたからくっくでゅーが新しい包帯と絆創膏を持って来るまで大人しくしていて下さいね」 「………」 「………社長?」 返事が来ない。 「もしもし?社ちょ…」 「スースー…」 「……寝てる……」 どうしたのかと近付けてみれば、小さな寝息を立てていた。 「……やっと大人しくなった」 ふぅ、と一息付いて、自分もソファーに座る。 「……………」 何気なく、隣のホームズに目をやる。 そんなに良い夢を見ているのだろうか、なんとも幸せそうな寝顔をしていた。 (きっと、美味しい物を食べてる夢でも見てるんだろうな) ふと、そんな事を思う。 と、目線が少しずれ首筋に向いた時。 「……血」 首筋の少し下の肩口に、擦り傷があった。傷口から、血が滲んでいる。 「………………」 しばらく、傷口を眺めている呉羽。 それから、少し考えた後、ホームズの肩口に顔を寄せた。 ぺろ。 「……………」 そっと、血が滲んでいた傷口を舐める。 仄かに、鉄の味がした。 「このくらいなら・・・」 夢の世界にどっぷりつかっている貴方には分からない。 僕のささやかないたずら。 コンコン。 「呉羽―。新しい包帯持って来たわよ」 短いノックの後、くっくでゅーが包帯の入った救急箱を持って入ってきた。 「あら?社長ったら、またこんな所で寝て・・・しかも、よだれまで垂らして・・・」 「いつもの事じゃないですか」 「まぁ、そうだけどね」 そう言いながら、救急箱を呉羽に渡す。 「じゃあ、社長が起きたら包帯巻いてあげてもらえる?」 「えぇ、いいですよ」 「それじゃ、まだ片づいてない資料があるから」と、扉を開けて部屋を出ていった。 それを見送って、未だに夢の中にいるホームズを眺める。 「・・・・・・・って、この人いつ起きるんだろうか?」 まったくと言って良いほど、起きる気配の無いホームズ。 そして、目線をまた首筋に戻す。 そこには、先程の擦り傷とそれとは違う赤い跡・・・。 「・・・・・・きっと気付かないだろうなー」 そうぼやいて、天井を仰いだ。 後に残るのは、一人の寝息と深いため息。